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広島高等裁判所松江支部 昭和24年(控)163号 判決 1950年6月12日

被告人

巖本嵒

主文

原判決を破棄する。

本件を松江地方裁判所益田支部に差戻す。

理由

先づ職権を以て原判決の事実認定を調査をするに原判決は被告人は肩書居宅において医院を開業している医師にして麻藥の施用者であるが第一、昭和二十三年十一月八日頃より昭和二十四年三月二十七日頃迄の間、右医院において麻藥の中毒者である三浦金祐に対し別表記載の通りその中毒病状を緩和するため麻藥である塩酸モルヒネ〇、一瓦注射液を四回位注射し、塩酸モルヒネ〇、四瓦入頓服藥を十一回、塩酸モルヒネ〇、四瓦入水溶液を五回位交付したとの事実を認定しておる。そして右の別表によれば被告人は昭和二十三年十二月六日同月十一日昭和二十四年二月七日同月十二日の四回にわたり毎回塩酸モルヒネ〇、一瓦含有の注射液を注射しているのであつて即ち被告人が麻藥中毒者三浦金祐に対し一回に注射した塩酸モルヒネの量は〇、一瓦であることが明らかである。しかし当公廷における証人菅野一の証言によれば塩酸モルヒネ〇、一瓦含有の注射液を一度に注射することは塩酸モルヒネの致死量を注射することであつて、医師はかような乱暴な注射をしないこと及び市販の塩酸モルヒネ注射液一アンプルに含有されている塩酸モルヒネ含有量は〇、〇一瓦であつて、塩酸モルヒネ〇、一瓦含有の注射液なるものは市販されていないことを認めることができる。されば被告人は医師である以上かような危險極まる注射をしたものとは容易に考えられないのであつて、もし注射したとすれば三浦金祐は特別の事情なき限り既に死亡している筈である。即ち原判決がなんら特別の事情を判示することなく被告人が麻藥中毒者三浦金祐に対し前後四回に亘り毎回塩酸モルヒネ〇、一瓦含有の注射液を注射したと認定したことは明らかに実驗則に反し理由不備の違法があるといわねばならない。從つて原判決は控訴趣意について判断するまでもなくこの点において破棄を免れない。

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